
F1を所有するリバティ・メディアは、各地域で次期放映権交渉を同時並行で進めており、とくに米国については「かなり進んでいる」(デレク・チャンCEO)段階に入った。チャン氏は直近の会合で、単なる中継の委託ではなく、デジタルやコミュニティ施策まで含むパートナー像を重視する姿勢を示し、「レースの外側でもファンがコンテンツにアクセスできるようにしてくれる存在」を理想と語った。
米国では現行契約が2025年末で満了を迎える見通しで、複数の大手が名乗りを上げる。報道ベースでは、アップルが2026年からの米国向け独占ストリーミング権に年1億5千万ドル以上で入札したとされ、次期契約の有力候補に浮上している。ただし当事者はいずれも正式発表しておらず、交渉過程の詳細は非公表だ。
一方で欧州の主要市場は安定的だ。英国・アイルランドではスカイが独占放映を2029年まで延長済みで、ドイツとイタリアも2027年までの権利を確保している。英語圏の基盤を持つスカイの継続により、コア視聴者の獲得と配信品質の水準は当面維持される見込みだ。
南米でも動きがある。ブラジルは2026年から地上波の老舗グローボが複数年契約でF1中継に復帰し、TVとデジタルのクロスプラットフォームで全セッションを届ける計画だ。大型市場での再編はグローバル・リーチの強化につながる。
リバティはMotoGPの親会社ドルナ買収についてもEUの承認を得ており、モータースポーツの権利・配信を横断する自由度も高まる。F1単体の価格・価値だけでなく、コンテンツ群としての提案力を武器に、放送局やテック企業との協業余地を広げたい狙いだ。
全体として、F1は視聴習慣の変化に合わせて権利パッケージの設計を柔軟化し、放送+配信+周辺コンテンツの複合体験を前提に交渉を進めている。米国の決着が今季中に見えてくれば、2026年以降の編成・F1TVの取り扱い、無料枠の扱いなど、各国の視聴環境にも波及するはずだ。注目は、誰がレースの外側まで踏み込むか――テクノロジー企業と既存放送局の競争は最終局面に入っている。