
F1のレースは2025年シーズン、多くが雨や変わりやすい天候に見舞われてきた。FIAレースディレクターは、どのタイミングでレースを止め、再開し、あるいは続行するかという難しい判断を迫られてきた。ドライバー、チーム、そしてファンすべてを納得させることは容易ではない。
最新の議論を呼ぶきっかけとなったのは、スパ・フランコルシャンでのグランプリだった。レースディレクターは雨が収まるまで待ち、実質的にドライコンディションでレースを開始した。これは極めて慎重な対応であり、すでにシルバーストンの後にも話題となっていた手法だった。
さらにスパの歴史的背景も考慮された。過去の事故がレースディレクターを慎重にさせ、安全面で改善が進んでいるとはいえ、その影を落としていた。そして現在の大きな問題は、F1カーが巻き上げるスプレーの巨大さにある。
幅広いタイヤとグラウンドエフェクトを利用するマシンは、過去のF1とは比べ物にならないほどの水しぶきを発生させる。視界はほぼゼロになり、アスファルトの性質も相まって、ウェットコンディションでは極端にグリップを失うのだ。
ここで何名かのF1ドライバーが、この問題について率直な意見を語った。
ピエール・ガスリー
「安全寄りの判断をした理由を説明する方が、危険な状況にドライバーを置いた理由を説明するよりはずっと簡単だ。シルバーストンでは、前が見えずに他のマシンに衝突する事故があった。それはレースではない。僕たちはオーバーテイクを見たいし、濡れた路面でスキルを発揮する姿を見たいんだ。2メートル先が見えるかどうかで勝負が決まるようなレースではない。スパでは週末前にすでに『今回はより慎重になるだろう』と言われていた。シルバーストンでのこと、そしてこのサーキットの歴史を踏まえての判断だ。確かに保守的だった。だが、それを不満に思うべきかといえば、僕はそうは思わない。むしろ、少しでも判断を精緻にしてショーとしての価値や走行機会を増やすために協力すべきだと思う。次のレースではさらに良くなるはずだし、調整を見つけられるはずだ。彼らが悪い仕事をしたとは思わない。
説明できる判断だった。安全寄りに傾いたというだけだ。僕たちドライバーは濡れた路面で走ることを望んでいるし、それは楽しいことだ。ただ、ケメルストレートで前が全く見えずにクラッシュするような状況にはしたくない。別の事故をまた別の家族に説明する羽目になりたくはない。ぎりぎりの線なんだ。FIAと協力して状況を良くしていくしかない。このマシンのスプレーは確かにひどい。タイヤにカバーを付けるなど、いろいろなテストは行われているようだが、今後も改善のための方法を見つける必要がある。そうすれば雨でもレースができるようになる。今の状況では、視界が確保できるときはウェットタイヤの必要がなくなってしまう。鶏が先か卵が先かという問題で、改善が求められているんだ。」
エステバン・オコン
「僕が初めてスパに行った2012年は、最後尾からのスタートで雨のレースだった。何も見えなかった。まるでイサックがキミに突っ込んでしまったあの時と同じ状況だ。僕は25番手くらいで、少しでも前が見えるように右に寄った瞬間、コースと平行にいた別のマシンをかすめた。もし左にいたら、大怪我をしていたかもしれない。本当に危険だった。だからFIAがスパで下した判断は正しかったと思う。2メートル先すら見えない状況で走ることは、再び大惨事を招く。僕たちはすでにこうした条件でドライバーを失ってきた。二度と繰り返してはならない。」
オスカー・ピアストリ
「ここ数年、僕たちはFIAに『どこまで許容できるか』というフィードバックをずっと伝えてきた。実際、テレビで見るよりもコックピットの中ははるかに視界が悪い。FIAは僕たちの声に耳を傾け、慎重すぎるくらいに対応してくれたと思う。それは僕たちが求めたことでもある。大きなクラッシュが起きるよりははるかにマシだ。僕たちはさらに調整していくだろうが、今は正しい側に立っていると思う。」
ランス・ストロール
「クルマは大きくなり、タイヤも大きくなった。その結果、スプレーは以前よりも悪化している。視界が最大の問題だ。スパのようなサーキットでは、オー・ルージュを時速300kmで駆け上がりながら、何も見えない状態に置かれる。そんな状況でレースを続けるのは難しい。改善すべきは視界だ。スプレーを減らす方法を見つけなければ、正しいウェットレースはできない。」
ジョージ・ラッセル
「今の時代、GPSやヘッドアップディスプレイの技術があるんだから、前方のクルマを見えなくても視覚的に示す方法があってもいいはずだ。ハイウェイを時速130kmで走りながらワイパーを切った状態と同じだ。ただし僕たちは時速300kmで走っている。未来には何らかの表示システムが必要になるかもしれない。僕は賢くないから解決策はわからないが、技術者たちなら見つけられるはずだ。」
オリバー・ベアマン
「F4の頃、ディフューザーがなかったマシンではまだ良かったが、今はディフューザーでスプレーが拡散してしまう。特に直線での視界が最悪だ。スパのストレートには排水用の溝が切られていて、それは良かった。もし直線にああした工夫を施せば効果があるかもしれない。だが、根本的にグラウンドエフェクトの時代では、後ろのスプレーはクルマの3倍、4倍の幅に広がってしまう。視界がゼロになる瞬間があるんだ。ブレーキマーカーや木を目印にするしかない時もある。2000年代よりも悪い。結局、F1でダウンフォースがある限り、スプレーは避けられないと思う。」
マックス・フェルスタッペン
「今年のマシンについては、もうどうしようもない。ディフューザーがすでに巨大なスプレーの雲を作ってしまう。昔のマシンよりもはるかに視界を悪化させている。それに大きなタイヤも加わって、大量の水を巻き上げるんだ。スパの後にも言ったが、シルバーストンはギリギリで、あれは少し安全寄りで良かった。けれどスパはさすがに慎重すぎた。
ただし、スプレーがひどく前が見えないなら、リフトしてスピードを落とせばいいし、不安なら車間を広げればいい。大事故はたいてい、見えないのに全開で走り続けるから起こる。『前のやつも後ろのやつもやってるから』といって抑えずに走ると事故になるんだ。
複雑な問題だ。他のドライバーは僕と逆のことを言うかもしれないが、それも仕方ない。僕は純粋なレースを求めている。スパは雨なら素晴らしいレースになったはずだ。F1の歴史を振り返っても、偉大なウェットレースがたくさんある。だが、今ではそういう光景はめったに見られない。もちろん安全は大事だ。だが時に、安全にするかどうかはドライバー自身の判断でもある。もしほとんど乾いた状態でしか安全に走れないなら、それは僕たち全体で考え直すべき問題だ。」
フェルナンド・アロンソ
「2017年のレギュレーション以降、ワイドタイヤが導入されてから視界は悪化した。本当に難しいテーマだ。僕たちはみんなレースをしたい。単独走行なら問題ない。だが集団の中に入った瞬間、何も見えなくなる。不幸なことにスパでは視界不良による大事故の例が多すぎる。僕たちは勇敢でありたいし、観客もそれを望んでいる。だが事故が起これば、『30分待った方が良かった』と思い知らされる。それが現実だ。
ワイドタイヤは確実に視界を悪化させた。そして最近のアスファルトも昔とは違う。今の黒くてドライでは高いグリップを生む舗装は、雨になると鏡のようになってしまう。視界は最悪だ。だが、どうすれば良いかは僕にもわからない。ハイウェイにはスプレーが出にくい舗装がある。ああいう舗装をサーキットにも取り入れればスプレーはゼロになるはずだ。ただしドライでは急激に摩耗するだろうし、そこは検討が必要だ。
結局、僕はドライバーにすぎないから何も変えられない。2026年に変わるとも思わない。2000年代初頭の方がまだマシだった。だが、恐ろしさという点では今も昔も変わらない。」
アレクサンダー・アルボン
「改善しようと努力してきたのは事実だ。放置してきた問題ではない。ただし、この世代のマシンこそが一番の原因だと思う。来年になれば状況は良くなるはずだと願っている。クルマの哲学的な違いから改善されると思う。
スタンディングスタートはショーとして盛り上がるが、スプレーの問題を悪化させる。だからスパでローリングスタートにしたのは良い判断だったと思う。FIAの立場は本当に難しい。過去に命に関わる大事故も起きている。もっと派手にしたい気持ちはあるが、僕たちもFIAの立場にはなりたくない。
ただ、ストリートコースはさらに悪い。壁に囲まれてスプレーが閉じ込められてしまう。正直、完全に解決できる問題ではないと思う。ローリングスタートなら自然と車間も空き、レースを進めやすい。だから僕はあの方法でいいと思う。実際、オスカーがランドを抜いたように、ショーとしても成立していた。
問題は、フルウェットと路面条件が噛み合わないことだ。タイヤの性能が悪いわけではない。ただ、視界がゼロだから走れない。僕たちドライバーが声を上げると『弱音を吐いている』ように見えるかもしれないが、実際は危険すぎるんだ。250km/hで20m先が見えない感覚は最悪だ。FIAは僕たちの声をよく聞いてくれているし、改善を探っている。でも結局、ウェット路面で走れるかどうかを判断できるのは僕たちしかいない。」
カルロス・サインツ
「F1はもっと革新的であるべきだと思う。スプレーが出ない舗装も世の中には存在する。サーキットにそれを導入すれば解決できるかもしれない。ただ、ほとんどのコースにはまだない。結局、最大の問題は視界だ。スパは過去に暗い歴史を持っているから、FIAは意識的に慎重だった。木曜日の時点で『今回は非常に保守的にいく』と伝えられていた。もしそれをもっとファンや世界に向けて説明していたら、理解は得られただろうと思う。
もちろん僕もレーシングドライバーだから、もう少し早く走り出せたはずだと思っている。赤旗明けの再開も、安全車の時間は短くできたと思う。だが、最終的にボタンを押して『GO』と言うのはFIAだ。もしその後に大事故が起これば、彼らの責任になる。だから慎重になった理由は理解できる。
ただ、今のグラウンドエフェクトカーは幅広で、極端にスプレーをまき散らす。ブラジルではフルウェットで走ったが、視界は0%だった。昔なら10~20%は見えていたから、まだ自分の反射神経で回避できた。だがゼロでは運任せだ。スパのようなレースでは常にその不快な現実と向き合わなければならない。」