ロンドンの裁判所が、F1、F1マネジメント(FOM)、そしてバーニー・エクレストンに対し、フェリペ・マッサが進める訴訟の法的費用として25万ポンド(約5,284万円)を支払うよう命じた。F1の現在と過去の中枢に「費用負担」という形で打撃が入った格好だ。
この訴訟は、単なるコストの話ではない。マッサは2008年世界選手権の結末をめぐり、自分が「陰謀の被害者だった」と主張し、6400万ポンド(約133億4,512万円)の損害賠償を求めている。タイトルをルイス・ハミルトンに“1ポイント差”で奪われたという事実が、彼の怒りの原点だ。
争点の核は、あのシンガポールGPにある。ルノーのネルソン・ピケJr.が意図的にクラッシュし、セーフティカーを出させた「クラッシュゲート」だ。混乱の中でフェラーリはピット作業を誤り、マッサは給油ホースが付いたまま発進する最悪のロスを負った。マッサ側は、あの一連が選手権の趨勢を決めたと見ている。
さらに火種になったのが、2023年のエクレストンのインタビューだ。彼は当時のFIA会長マックス・モズレーとともに、クラッシュが意図的だった事実を“当時すでに把握していた”趣旨の発言をしたとされる。スポーツの評判を守るため介入しなかった、という筋立ても示された。のちにエクレストンは「誤訳だ」と距離を取ろうとしたが、マッサ陣営にとっては扉が開いた瞬間だった。
今回の25万ポンド支払い命令は、その扉が「まだ閉じられていない」ことを裁判所が認めたに等しい。2025年後半には、ロバート・ジェイ判事が被告側の“訴訟自体を潰す”試みを退けている。つまり、全面審理へ進む道筋が残ったまま、費用面でもF1側に負担が生じた。
次に起きるのは、スピード勝負だ。マッサ側は全面審理への迅速な移行を求め、追加の控訴や引き延ばしに反対している。内部資料や証拠の開示を迫り、「失われた収益」と「汚された王冠」の真相を、法廷で白日の下にさらす狙いだ。
ここで冷静に見ておくべき点がある。マッサが求めているのは“感情の救済”ではなく、金銭と責任の確定だ。相手はF1、FOM、そしてエクレストンという、スポーツの意思決定の中心にいた存在になる。F1の統治と「過去の処理」に踏み込む訴訟になり得る以上、彼らは簡単には引かない。だからこそ、今回の「25万ポンド」という中間的な勝利は、金額以上に重い。法廷が、この争いを“続ける価値がある案件”として扱っている事実だけが残るからだ。
