F1が「4月のレースなし」という異例の事態を想定し始めた。焦点は来月に予定されるバーレーンGP(サヒール)とサウジアラビアGP(ジェッダ)だ。中東情勢の緊迫化により、2戦が開催できない可能性が現実味を帯びている。F1は仮に中止となっても“直前の穴埋め”に動かない見通しで、ファンにとっては待つしかない時間が伸びる形になりそうだ。

報道によれば、事態悪化の引き金は米国とイスラエルがイランに対して空爆を行ったことだ。これを受け、FIAとF1(FOM)は状況を注視しているが、現時点で最終決定は出ていない。FIA会長のモハメド・ベン・スライエムは判断基準について「安全と福祉」を最優先にすると強調している。つまり興行や商業的都合は後回しだ、という意思表示だ。

ただし、結論を先延ばしにはできない。輸送の現実が締め切りを作るからだ。機材や貨物は、日本GP(3月29日)の直後にバーレーンへ送られる必要がある。予定どおり開催するなら、F1が判断できる猶予は実質2週間ほどしかない。中止を引き延ばして最後に帳尻を合わせる、という選択肢は取りにくい。

延期もまた難しい。2026年のカレンダーは過密で、後ろ倒しの受け皿がないとされる。だからF1が突き付けられるのは二択だ。予定どおり走るか、カレンダーから消すかだ。中止が確定した時点で“別の日に移す”ではなく、“その2戦は無かったことになる”可能性が高い。

では空いた枠に代替レースを入れるのか。ここも期待しにくい。もしバーレーンとサウジが消えると、日本GP(3月29日)からマイアミGP(5月3日)まで6週間の空白が生まれる。イモラやポルティマオ、あるいは日本で連戦という案が非公式に話題になったとされるが、実現に向けた勢いは弱いという。特に日本連戦案は、開幕から移動が続くメカニックの負担が大きく、早い段階でしぼんだと伝えられている。

金の理屈も冷たい。コロナ禍にはテレビ放送などの契約を満たすため、F1は代替開催を素早く組み上げた。だが今季はすでに22戦が予定され、契約上の基準は満たしている。追加開催で得られる開催料は大きくなく、メリットが薄い。つまり「やる理由」が弱い。

チーム側も、2戦消えれば分配される商業収益が減る。だが「耐えられない痛手」とまでは見られていないようだ。マクラーレンCEOのザク・ブラウンは、状況次第としつつも優先順位は別にあると語っている。

「状況次第だ。レースが置き換わるのか、延期されるのか、そしてそれに伴う経済面がどうなるのか、という話だ。でも、いま起きていることを考えれば、少し財務的な影響があったとしても、僕らは気にしない」

そしてF1 CEOのステファノ・ドメニカリは、オーストラリアGP週末の土曜日(記事掲載日から見て3月7日)に予定される会合で、各チーム代表とこの件を話し合う見込みだという。結局のところ、緊張が短期間で緩和し、安全に開催できると判断できるかがすべてだ。そうならなければ、F1は「丸々1か月エンジン音が消える」という、世界選手権として異例の4月を迎えるかもしれない。