ドライバー契約交渉といえば、たいていは肖像権や移動手段の条件など、弁護士が細部を詰める世界だ。だがジョージ・ラッセルは、その常識から外れた一手を打っていた。
2025年シーズン後半、ラッセルは好調な戦いを積み重ね、最終的にランキング4位を確保した。その流れの中で昨年10月、メルセデスと契約交渉の席につき、残留を2026年まで延ばす契約にサインした。
多くのドライバーにとって、十分な報酬と会社のクルマがあれば話はまとまる。だがラッセルは違った。彼はすでに約270万ドルのメルセデスAMG Oneを所有している。にもかかわらず、さらに欲したのは“実戦で走った本物のF1マシン”を自分のものにすることだった。
しかし、FIAの予算上限(コストキャップ)に合わせて帳簿を締めるメルセデスの会計が、最後にその夢を叩き潰した。
独Auto Motor und Sportのインタビューで、ラッセルはこう明かした。メルセデスは2026年のシートは用意してくれた。だが、家に持ち帰るためのシャシーまでは渡さなかった。
「僕は自分のF1マシンをコレクションしたいんだ。でもコストキャップのせいで、僕らは1年にモノコックを3〜4基しか作れない。20年前は無制限テストが許されていて、各チームは15〜20台のシャシーを作っていた。そこから定期的に入れ替えていたんだ」
現代のF1では、スペアパーツに1ドル使えば、風洞開発予算から1ドル削られる。そんな時代に、シャシーをドライバー個人のコレクション用として手放すのは、チーム代表トト・ウォルフにとっても越えられない一線だったのだろう。ラッセルは、条項が通らなかった悔しさを隠さなかった。
「前回の契約交渉で、F1マシンを手に入れようとした。でも残念ながら成功しなかった」
ただし、ここで引き下がるタイプでもない。ラッセルは要求の矛先を、上司との交渉から“ルールそのもの”へ切り替えた。クルマがもらえないなら、もらえるように制度を変えたいという発想だ。
「コストキャップの外でモノコックを作れる方法を、チームが見つけてほしい。他のパーツは十分にある。各ドライバーは年にエンジンを5基持てる。メルセデスは1シーズンで合計60基のエンジンを作っていると思う。リアウイングも、高・中・低ダウンフォース用でたくさんある。フロントウイングやフロアも十分にある。ほかのパーツは少なくとも10セットはある。でもモノコックだけは3〜4基しかない。もしかしたらFIAに話すべきかもしれない」
