FIAの「シングルシーター技術問題責任者」、ニコラス・トンバジスが、FIAの視点から2026年F1レギュレーションをめぐる複数の疑問に対する回答を公表した。焦点は、直線モード(DRSの代替とされる仕組み)の調整、マシンのペース、そして規則の微調整に至った背景だ。

ここ数週間、2026年規則を巡っては複数の論争が表面化し、FIAが手直しに動いたとされる。大きな話題の一つはエンジンのシリンダー圧縮比だ。従来規則では18:0に設定されていたが、新規則では16:0になる見通しだ。ところが報道では、メルセデスとレッドブル・フォードが抜け穴を突く可能性が取り沙汰され、FIAがそれを把握し封じ込めようとしているとも言われている。さらに、燃料流量計の読み取りを変化させるトリックの噂も浮上した。

これらについて公式声明は出ていない一方、メディアではささやきが絶えない。FIAでシングルシーター委員会の責任者を務めるトンバジスは、2026年規則の策定に向けてFIAが積み上げてきた作業量の大きさ、そして「狙いどおりに機能させるために必要だった微調整」を強調した。

また、近年のレギュレーションでも悩みの種だった“ダーティエア(後流)問題”にも踏み込んだ。2022年に改善したはずが、2025年には再び追走が難しくなっているという認識だ。ただしトンバジスは、2026年では同じ轍を踏まないという見立てを示し、後流対策の“寿命”を伸ばしたい考えをにじませた。

直線モードについては詳細を明かさなかったものの、議論が続いていることは認めた。さらに、2026年マシンの速さを「F2並み」と揶揄する声については否定した。


規則を整え、微調整する理由

トンバジスはまず、2022年型マシンがレギュレーション開始時点で後流特性を大きく改善していたと説明した。

「まず言っておきたいのは、2022年のマシンは後流特性が大きく改善した状態でスタートしたということだ。たとえば前車から20メートル後方でのダウンフォース損失は―少し不正確な数字を言うリスクはあるが―旧世代のマシンでは約50%だったのが、2022年型の初期には80%か85%くらいまで改善していたはずだ。そしてレギュレーションサイクルが進むにつれて、それが徐々に悪化し、今は私も完全には確信がないが、おそらく70%程度の話になっている。だからこそ、今のマシンは2022年当初よりも互いに追走するのが難しくなっている。とはいえ2021年よりはまだ良い。我々は、新サイクルの開始時点では90%くらい、そういう水準に近づくと考えている。つまり、これまでで最も良くなると信じている」

そして、現行世代で“抜け穴”や意図しない設計が重なり、後流特性が悪化した箇所があるとも指摘した。

「そして我々は、現行世代の規則の一部領域で、いわば抜け穴や意図しない設計が、特性の悪化を大きく招いたことも学んだ。フロントウイングのエンドプレート周辺はその典型だ。エンドプレートが、かなりのアウトウォッシュを許す形状へ変化していった。フロントブレーキドラムの内側も特性を悪化させた。フロアの側面もそうだった。こうした領域が少しずつ積み重なり、現行車の特性悪化につながった。我々は2026年規則の開発でそこから多くを学び、良い特性をより長く保てることを願っている。あるいは、少なくとも今回のサイクルほどの悪化は起きないようにしたい。もちろん多少の悪化はあるだろうが、今回ほどではないはずだ」


直線モードは「議論が続いている」

直線モード(DRSの代替的な仕組みとされる)について問われると、トンバジスは具体的な中身には踏み込まなかった。

「残念だが、そこはあまり詳細を話さない。いくつか異なる選択肢をめぐって、このテーマは多くの議論がある。数週間前の技術ミーティングでも最終的な議論があって、解決策はいくつかある。ただ、その特定のトピックに関する“直近の最後の変更”については、私は把握していない」


「F2並み」は否定 ラップタイム低下は1~2秒程度

2026年マシンが遅すぎるという見方、特に「F2レベル」という言い方については、強く退けた。

「フォーミュラ2並みというコメントは的外れだ。我々が話しているのは、トラックや条件にもよるが、全体として現在より1秒から2秒程度遅いという領域の話だ。そして当然ながら、サイクルの開始時点で前サイクルより速いのは愚かだ。規則の観点からは、マシンを速くするのは簡単で、僕たちにとってコストもほとんどない。だが、自然な開発で得られるものを“取り返していく”余地が必要で、最初から前より速くしてはいけない。そんなことを20年も続けたら、どうなるか想像できるはずだ。だからマシンが少し遅くなるのは自然だ。ただし、『もうF1ではない』という議論に近いところにはいないと思う」


なぜ前世代で背中の痛みが問題になったのか

現行世代で話題になったドライバーの身体負担、特に背中の痛みについても見解を述べた。原因は、想定以上に車高を下げ、サスペンションを硬くして走らせる方向へ“収束”したことにあるという。

「あなたが言っている主な問題は、マシンが非常に低い車高で、非常に硬い状態で走ってきたという点だと思う。それは現行世代のマシンを作った時点では、全体として想定されていなかった。来年の空力の自然な方向性も、車高が高い状態より低い状態を好むのは変わらないが、その差は同じほど大きくはない。車高に対する空力の傾きが緩くなる。つまり最適点は少し高くなり、我々の見立てでは、機械的グリップを得るために、マシン全体として少し柔らかめに走るようになるはずだ。もちろんこれは推測だ。僕たちがマシンの条件を決めているわけではない。ただ、我々が持っているあらゆる兆候は、その点で少し良くなる方向を示している。実際に走る姿を見るまで確信はできないがね」


2026年に向けて、FIAは「前車追走性能の改善」を掲げながら、同時に“抜け穴”や運用上の歪みを早期に潰し、直線モードの成立条件を整えようとしている。マシンが遅くなるという批判は消えないが、トンバジスの見立ては明確だ。遅さは設計上の必然であり、F1の本質を損なう水準ではない、という立場だ。