フェルナンド・アロンソは、F1で勝利から遠ざかる年月の中で、モチベーションを保つためにどのような精神的葛藤と向き合ってきたのかを率直に明かした。44歳のアロンソは、最後のタイトル獲得から約10年が経過した今、結果が伴わない状況で求められる“内なる強さ”を語っている。
近年、アロンソは競争力に欠けるマシンで戦い続けてきた。その中で、最も重要だったのは自分自身との対話だったという。
「しばらく勝てていなくて、しかも今の数年のようにクルマという正しい道具がないときは、自分自身と何度も会話をしなければならない。」
「家では、一人で起きて、一人でトレーニングに行く。その間、何時間も自分と話し続ける。過去の傷跡や昔の映像を見返して、『今結果を出せていないこの自分ではなく、僕は今もあの頃の自分なんだ』と言い聞かせるんだ。」
アロンソは、結果が出ない時期にこそ「エゴ」と「自信」の扱いが重要になると強調する。
「エゴを持ってはいけない。それは自分を遅くするだけで、何の助けにもならない。でも一方で、強い自己肯定感と自信は必要だ。」
「物事がうまくいっている時も、そうでない時も、その自信は絶対に揺らいではいけない。エゴと自信、そのバランスを取るのは本当に難しい。」
さらにアロンソは、一度F1を離れたあとに復帰した際、自身が“遅くなっている”と感じた衝撃的な経験についても振り返った。
「F1に戻ってきて、最初のテストでは、離脱前と同じパフォーマンスができていると思っていた。」
「でもラップタイムは違った。数コンマ遅れていることを示していた。」
その原因は、単なるフィジカルや努力の問題ではなかったという。
「その数コンマをどうやって取り戻すのか、答えが見つからなかった。自分ができる限界までプッシュしていたからだ。」
「それは認知システムの問題なんだ。生まれ持ったもので、日々の実践で磨かれるものだ。でも一度ブランクがあると、そのシステムがリセットされてしまう。」
アロンソはその感覚を、自転車に例えて説明した。
「自転車にもう一度乗るようなものだ。バランスを失って、また補助輪を付けなければならない感覚なんだ。」
「外から見れば簡単に見えるし、才能があればまたすぐ速く走れると思われる。でも実際には、身体も脳も感覚も、もう一度目を覚まさなければならない。」
長いキャリアの中で、勝利だけでなく、敗北と停滞を知るアロンソ。その言葉は、結果がすべての世界で戦い続ける者の、静かな覚悟を映し出している。
