レッドブル・レーシングは2025年シーズンに向け、セルジオ・ペレスの後任として、リアム・ローソンを指名した。この決定により角田裕毅は昇格を逃す結果となったが、日本国内に限らず、これを順当な判断とは見なしていないF1ファンはかなり多く、レッドブル・レーシングなどのSNSアカウントは非難と失望のコメントで溢れかえっている。
角田裕毅とリアム・ローソン、比較された2人
角田裕毅は2021年からRBで4シーズンドライブしてきた。1年目はクラッシュの回数が話題になったが、デビュー戦で9位、22戦中7回の入賞、最高4位とまずまずの戦績を残した。2年目にはピエール・ガスリーに肉薄するドライブを見せた(ガスリーvs角田の予選は13対9、獲得ポイントは23対13)。3年目にはF2チャンピオンとして活躍が期待されたニック・デ・フリースを圧倒的に上回り、その後送り込まれた経験豊富なダニエル・リカルドも周囲の予想を覆して返り討ちにした。この2人は角田との戦いに敗れたためにF1のシートを喪失したと言ってもよいだろう。
そしてRBに再び送り込まれたドライバー、ローソンに対しても予選で6対0と、次々に現れるチームメイトを倒し続けた。決して速くないマシンを駆りながらも予選で光る速さ、クレバーでアグレッシブなオーバーテイク、ユーモアを兼ね備えた人柄の良さはファンから人気を集め、レギュラードライバーの1人として存在感を高めている。
一方のローソンは、2022年にF2で選手権3位を獲得したのち、2023年と2024年にリカルドの代役として、非常に限られた時間で安定した走りを見せ、11回の決勝レースで何度か角田を上回るドライブを披露した。またペレスやアロンソとやり合う際どいシーンで肝の据わった駆け引きを披露し、評価を上げた。ただし9位に3回入賞したレース内容に関心するようなインパクトがあったわけではない。大きく見劣りするポイントは無いが、少なくとも表向きは数レースで何度か堅実な走りを披露したのみと言える。
ペレスの不調が話題になった頃から、角田には多くのファンの支持が集まり、昇格を望む声がSNSで高まったが昇格は見送られた。公式に述べられている判断理由はメンタル面であったといわれる。
クリスチャン・ホーナーの見解~戦績よりもメンタル?
レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーは、タフな環境での冷静さが重要な要素であると語る。特にフェルスタッペンのような圧倒的な存在と組むチームメイトには、精神的な強さが求められるという。
「ユーキは我々の姉妹チームで4年間経験を積み、成長を続けているドライバーである。彼は良い仕事をしているが、リアムが短期間で成し遂げた成果と彼の成長の軌道が非常に有望であると感じた。」
「これはユーキを将来的に除外するものではない。ただ、この時点では、リアムがフェルスタッペンのチームメイトとして必要な特性と精神的な強さを備えていると我々は判断したのだ。」
ローソンは、短期間でF1マシンに適応し、プレッシャーに耐えながらトップドライバーたちと戦えた点が評価されたという。しかし、歴代のF1ドライバーに対する評価で「速さではなくメンタル」でシートが決定した例があっただろうか?
ガスリー、アルボン、ペレスといった優秀なドライバーを冷酷にシートから下ろしつつ、9位入賞が3回、フルシーズン未経験のローソンを「メンタルの強さ」を理由にフェルスタッペンのチームメイトに据えて、マクラーレン、フェラーリ、メルセデスとの戦いに臨む判断は、いささか論理に欠けるところがある。
レッドブル飲料マーケティング戦略、株主の意向を想像してみる
レッドブル本社の経営層や株主が、ドライバーの才能や速さよりも注目するのはマーケティング視点であり、TV放映や関連グッズにおけるレッドブルロゴの露出度が、レッドブルドリンクの売上にどのように作用するかは詳細に分析されているだろう。レッドブルは世界で 121億3,800万本(2023年)の飲料を販売し、約1兆5,831億円を売上げている。前年比で4.8%成長しているマーケット戦略の舵取りは極めて重要な判断であり、フェルスタッペンとともに角田とローソン、どちらの名前と顔が露出するかで比較分析されたことは容易に想像できる。
その結果、例えばニュージーランド出身のローソンをレッドブルに乗せ、プロモーションを強化することでオセアニア市場でのシェアを高める判断をした考えるのは不自然ではない。一方、角田の日本市場での貢献は既に4年が経過しており、マーケティング商材として新鮮味に欠けると判断された可能性は十分にあり得る。レッドブルはフェラーリとは母体構造が全く違い、最優先事項はレッドブルドリンクの売上利益である。
今後の展望~角田にはまだチャンスがある フェルスタッペン対ローソンにも注目
角田裕毅にとっては厳しい結果となった。本人の心情的にはもはやレッドブルグループに残留する理由は無いかもしれないが、2025年は慣れたRBでシートがあり、活躍を見せるチャンスが残されている。F2のイサック・ハジャーがチームメイトになるとみられており、 5人目のチームメイトを倒す強さと速さを見せつければ、(またレッドブルのパーツをより積極的に流用するといわれる)2025年のマシンが速ければチャンスは巡ってくるだろう。今季急激に力を増しトヨタF1復帰の布石ともいわれるハースの小松代表は「角田を獲得したい」とのコメントを発している。また2026年にホンダと組むアストン・マーチンの動向も注視しておきたい。いずれ強豪となるであろうアウディが角田に関心を示しているという情報もある。他のドライバーに比べればまだチャンスに恵まれていると言える。
一方、ローソンは4度のチャンピオンと組むことで厳しいプレッシャーに対峙することになる。2025年の序盤は大目に見られるかもしれないが、レッドブルのシートに座って長々と学習する時間は許されない。シーズン中盤になって、ペレスのレベルを越えていなければ、アルボンやガスリーのような途中降板を命じられる可能性が高い。フェルスタッペンを相手にどこまで戦えるか注目されている。