マイアミGP週末は、フェラーリにとって厳しい展開となった。予選ではハミルトンがQ2敗退、ルクレールはスプリントレース前の偵察ラップでクラッシュし、出走できずに終わった。スプリントではハミルトンが3位を獲得したものの、メインレースでは両者とも中団での戦いを強いられた。

決勝では、ハミルトンが中団から追い上げを見せ、8位フィニッシュ。だが、マクラーレンやレッドブルには遠く及ばず、ウィリアムズと接戦を演じる状況だった。


レース中盤、ミディアムタイヤで速さを見せていたハミルトンが、ハードタイヤを履くルクレールの背後に迫った。ハミルトンは「前に出してほしい」と無線で要求。だが、フェラーリは即断出来ず、後方車の速さがDRS効果か、ハミルトンのペースかを判断するのに時間を費やした。

「『決断を下してくれ、さあ行こう』って感じだった。なのに、チームは『後で連絡する』みたいな返事だった。僕は心の中で『OK!』ってね。これは前にもショブ(ショブリン)やボノ(ボニントン)にも言ったことがある。タイヤでも少し損したけど、それもバトルをしていたから仕方ない。昔バルテリとやったみたいに、まずスワップして、それで追いつけなかったら戻すってやり方が良かったと思う。結局、アントネッリを抜けたかは別にして、僕たちは十分速くなかった。それが悔しい。怒りというよりは、『決断してくれよ!』って気持ちだ。僕たちはクルマの中で必死に走っているし、コンピューターみたいに速く判断してほしいと思うのは当然だ。」

「まあ、少なくとも放送されたのはPG(健全)だったよね? みんなが何を書くか分からないけど、きっと『無礼だった』とか言われるのかな。でも僕自身はそう感じてない。『頼むからやらせてくれ』ってだけなんだ。僕はまだ勝ちたいという気持ちがあるし、その火はまだ消えていない。それが強く出た瞬間だった。謝るつもりもない。僕はファイターであることをやめないし、それを恥じることもない。チームのみんなも同じ気持ちだと思う。クルマの問題が解決すれば、またメルセデスやレッドブルと戦えるはずだ。その日が早く来てほしい。次のレースでは違うアプローチも試すつもりだ。プロセスも見直していく。いつか表彰台を争える日を楽しみにしているよ。」

「いや、知らなかったよ。自分のレースとタイヤに集中していたから。1周目でカルロスとタイヤを使い合うようなバトルをしてしまったのは本当に想定外だった。だから、そこからはタイヤを守ることに必死だった。チーム内でどんな議論がされていたかまでは分からない。」

「無線のやりとりについて理解してほしいのは、FOMが放送のディレイを管理しているという点だ。僕たちが指示を出しても、それが視聴者に届くのは半周から1周遅れることもある。過去にも同じようなことはあった。そして、僕たちは大量の情報を同時に処理していて、例えば『ターン11の前にやれ』とか『ターン17でやれ』なんてことは簡単じゃない。正直なところ、僕たちは必要なことはすべてやったと思っている。もちろん、半周早ければ、あるいは遅ければ良かったという議論はできる。でも、それでもやるべきことはやった。」

「はっきり言えば、判断に1周半ぐらいしかかからなかった。2台のクルマが異なる戦略で走っているとき、まず重要なのは後方のクルマの速さが本物か、DRSによるものなのかを見極めることだ。その判断に1周分、つまり1分半程度かかった。その後、スワップを指示した。確かに、もっと早くやれば良かったかもしれないが、その時点では判断が難しかった。シャルルやルイスにスワップを指示するのは簡単ではないが、彼らはそれをこなしてくれた。他のチームでこれをやっているところはほとんど見たことがない。」

「僕たちには方針があり、それに従っている。速さが後方にあると判断すればスワップを指示する。そうでなければ、オーバーテイクは禁止されている。逆に、スワップした後で抜けなければ、元のポジションに戻す。それが僕たちの原則だ。このときも、ルイスでアントネッリを捕まえることはできないと判断したので、ポジションを戻すように指示した。」


放送されたハミルトンの無線が「攻撃的」と受け取られたことで、レース後に一部メディアは波紋を広げた。しかしハミルトン自身は「それほどのことではない」と語った。

「もっと酷いことだって言えた。でも、それはしなかった。皮肉もあったけど、それはプレッシャー下で走っているから当然のことだよ。」

一方、F1の無線放送にはFOMによるタイムラグが存在するため、視聴者に届く情報は実際のやりとりよりも遅れて流れることが多い。バスールもその点を強調し、「全体像を見て判断してほしい」と述べている。


レース後、バスール代表はハミルトンの部屋を訪れ、直接対話を試みた。ハミルトンはこれに「冷静に」と返し、互いの理解を深める場となったという。

「レース後、ルイスとはしっかりと話をした。彼のフラストレーションは完全に理解できる。彼は勝ちたいと強く思っている。チームメイトに道を譲るなんて、どんな状況でも簡単なことじゃない。それでも、他のチームでこれを実行した例はほとんどない。だからこそ、フェラーリとしては責任を持って決断を下した。僕たちは“フェラーリのために戦う”ということを第一に考えている。」

「正直なところ、チームとしては良い対応をしたと思っている。もちろん、いつだって『もう少し早くやれたのでは』という声はある。でも、レース中にDRSの影響か、それとも純粋なペース差かを見極めるのは非常に難しい。数時間後にデータを見て判断するのとはわけが違う。」

「僕はこれまで何度も、こうしたポジションスワップの決断を迫られてきた。でも、これまで一度たりとも『どうぞ、お先に』と快く道を譲ったドライバーなんて見たことがない。それは自然な感情だ。順位を譲るというのは、まるで自分の仕事を手放すような感覚だろう。でも、僕たちはチームとして、時にそれを求めなければならない。今回はその判断を下した。そして、両者とも指示に従ってくれた。だから、これは“チームとしての勝利”だと僕は思っている。」

「僕の心配は、彼らがテレビで何を話すかではない。僕たちの間で、しっかりとした信頼関係が築かれているかどうか、そこがすべてなんだ。ルイスが僕の判断に納得し、僕も彼を信頼できる。そして同じことがシャルルにも言える。その上で、僕がフェラーリのために判断を下す。これは感情ではなく、タイムとデータ、そしてチームの総合力をもとにした決断なんだ。」

「ライブで動く状況の中で、完璧なタイミングなんて存在しない。たった1周半で判断を下した。これが遅かったと言われるかもしれないが、これが現実だ。後方のドライバーはすぐにでも動いてほしいと思うし、前方のドライバーは自分が速いと思っている。そのズレが、このような葛藤を生む。でも、それもレースだ。10周後に立場が逆転すれば、同じことが起きる。」

ルクレールとの直接の会話はなかったが、両者ともに「関係に問題はない」とし、次戦に向けて気持ちを切り替える姿勢を見せている。今回の一件が示したのは、戦略の決断スピードとドライバー間の信頼関係の両立の難しさである。また、予選戦略のミス(スクラブタイヤ使用)やタイヤマネジメントの課題も表面化した。バスールは「マクラーレンには敵わなかったが、レッドブルやメルセデスと戦う余地はあった」と述べており、予選での位置取りがレース結果に大きく影響したことを認めている。