ルイス・ハミルトンは40歳を目前に控え、初めてチームメイトに明確に敗北を喫した後、2025年シーズンからF1界で最も注目を集めるフェラーリに移籍する。このチームでの新たな相棒は、27歳のシャルル・ルクレールだ。過去のどのシーズンよりもハードルが高いように見えるが、それがハミルトンにとっての新たな物語の始まりになるかもしれない。Sky Sportsなどのジャーナリスト、マーク・ヒューズ氏がハミルトンの速さとフェラーリについて語った。
2024年メルセデスで苦戦したハミルトン、その原因とは?
ハミルトンは2024年シーズン、メルセデスのマシン特性に苦しんだ。特に2022年から導入されたグラウンドエフェクトカーの特性が、彼の持ち味であるブレーキングからコーナー進入にかけてのスキルを制限していたのである。
「反応速度」がドライバーの速さを決定するというのは誤解であり、実際には「感覚」が重要であるとされる。QinetiQ(元ウィリアムズのスポンサーでもある防衛関連企業)が行った研究では、車の回転やヨーに対する感覚は背骨の下部にある受容器から中耳に伝えられる信号が大きな役割を果たしているという。
「反応速度は通常の人間と同様であり、速さと直接関係ない。むしろ重要なのは車の挙動を感じる能力である。」と、ドクター・リカルド・チェッカレッリは述べている。彼は過去30年間、多くのF1ドライバーを診てきた専門家である。
「私の秘書が最速の反応速度を持っているほどだ。」
ハミルトンの速さは、その「感覚」を活かしてブレーキングからコーナー進入にかけてタイヤの負荷を動的に分配する技術にあった。極限のブレーキングでフロントタイヤに負荷をかけつつ、ブレーキをリリースする瞬間に車のリアをフロント軸の周りで旋回させ、タイムロスの滑りを防ぐという独自のスキルを持っている。
2024年カナダGP以降、苦戦した原因
2024年シーズン序盤、ハミルトンとチームメイトのジョージ・ラッセルのタイム差はわずかなものであった。しかし、カナダGPを境にハミルトンはラッセルに大きく後れを取るようになった。この原因のひとつが、メルセデスが採用した「柔軟性のあるフロントウイング」にあった。
柔軟なフロントウイングは低速でのアンダーステアと高速でのオーバーステアのバランスを取るための技術で、マシン全体をより低く設定できるようにした。しかし、この特性がハミルトンの得意なブレーキング時のピッチングをさらに制限し、彼のスキルを十分に発揮できない状況を生んだ。
ハミルトンはこれを補うため、スロットルで車の向きを変えようとしたが、それがリアタイヤの過熱を招く結果となった。
フェラーリマシンとの相性は
フェラーリの2024年型マシンは、低速コーナーでの旋回性能に優れ、特にシャルル・ルクレールのドライビングスタイルを最大限に引き出す特性を持っていた。ルクレールはブレーキとスロットルを微妙に重ねる技術を駆使し、オーバーステアの状態でもタイムロスを抑えるスキルを持つ。
しかし、この特性がハミルトンにとっても有利に働く可能性がある。フェラーリのマシンが彼の「ピッチを活用する」ドライビングスタイルに合致すれば、彼の持ち味が再び解き放たれるかもしれない。
ただし、フェラーリが2025年シーズンにおいてメルセデスやマクラーレンが採用したような柔軟なフロントウイング技術を導入する場合、再びハミルトンの技術が制限されるリスクもある。
2025年シーズンの行方
フェラーリのマシンがハミルトンのスキルを活かす環境を提供すれば、ルクレールとのスリリングなバトルが展開されるだろう。一方で、マシン開発がルクレール優位の方向に進む場合、ハミルトンにとってはさらなる試練の年となる可能性がある。
新たな舞台で迎える2025年、フェラーリの赤いマシンでのハミルトンの復活劇が成るか否か。F1ファンにとって目が離せないシーズンとなるのは間違いない。ハミルトンがメルセデスで苦しんだ問題と同様の課題に直面する可能性もある。