エイドリアン・ニューウェイがアストンマーティン加入後の仕事ぶり、2026年マシン開発、ドライバーからのフィードバック、そして将来的なサーキット復帰について語った。

すでに数週間の業務を経て、ニューウェイは新天地に順応しつつある。歓迎の挨拶や内部の習熟期間は終わりを迎え、本格的な2026年マシンの開発が始動している。


新天地、チーム哲学とマインドセット

「新しいチームに加わるときは、経験がどうなるか想像するのが難しいんだ。僕がこれまで加入したどのチームも、それぞれまったく異なるものだった。ただ一つ言えるのは、このチームの皆がとても温かく迎えてくれたことだね。それは、これまでの経験では必ずしも当たり前ではなかった。

このチームは短期間で急速に人員を増やしてきた。設備は素晴らしく、人々はやる気に満ちていて、僕らの役目はすべてをうまく機能させることにある。F1は人間のスポーツだ。確かにテクノロジーは多いけれど、物事を前に進めるのは人なんだ。

勝つというメンタリティは、常に難しい課題だ。過去にあまり成功していなかったチームでは、勝たないことが当たり前になってしまう。だからこそ、自分たちには勝つ力があるんだという自己信頼を築くことが大切だ。

これはすべて、前に進むためのプロセスの一環だ。僕はチアリーダーでも、アメフトのコーチみたいに部屋の前に立って鼓舞するタイプでもない。みんなと一緒に働いて、一緒に成長していくんだ。

僕の仕事のやり方は2つある。一つは、どうすればクルマを速くできるかという問題を考えること。レギュレーションを読み込んで、ドライバーと話し、情報を集めてから図面を引いて解決策を考える。もう一つは、エンジニアリング部門の人たちと一緒に働いて、彼らのアイデアを聞きながら前進することだ。」


ファシリティ、ストロールの手腕、コーウェルとの連携

「ローレンスのビジョンによって、この素晴らしい設備――F1で最高の設備が生まれた。でも、今度はそれをどう活かすかが問われているんだ。繰り返すけど、これは人間のスポーツだ。

僕が以前いたチームは、F1で最悪の風洞を持ち、ありふれた工業地帯の建物を使っていた。それでも全員が力を合わせて素晴らしいチームを作り上げた。今いるこのチームにも優れた人材がたくさんいる。ただ、いくつかの部門では、もっと人数を増やす必要がある。

アンディのことはマクラーレン時代から知っている。彼がメルセデス・ハイパフォーマンス・エンジンズにいた頃からだ。彼には深い敬意を抱いているし、その実績が何よりの証拠だと思う。

僕とアンディ・コーウェル(アストンマーティンF1 CEO)の役割は少し違う。彼は会社全体を見ていて、僕はエンジニアリングに集中している。でも、互いにアイデアを出し合う関係にあって、非常に良い相乗効果が生まれている。」


2026年レギュレーション

「2026年のレギュレーションに対する考え方は、2022年の大改革のときと似ている。最初はあまりに厳格に思えて、設計者としてできることが少ないんじゃないかと感じた。でも細かく掘り下げていくと、意外と柔軟性があって、さまざまなアプローチが可能なんだ。

2022年の序盤には、チームごとにかなり異なる方向性を取っていたよね。今では4シーズンを経てほぼ収束したけれど、当初はバラエティに富んでいた。クルマがみんな同じに見えて、カラーリングでしか違いがわからないような状況は退屈だ。

2026年もおそらく同じような展開になるだろう。レギュレーションには柔軟性があり、チームはそれぞれ独自の解決策を出してくるはずだ。その中には数年で淘汰されるものもあるだろう。

今回特筆すべきは、シャシー規定とパワーユニット規定が同時に変わるということだ。僕の記憶では、これは初めてのことだと思う。正直、面白いけどちょっと怖いよ。

新しい空力ルールとPU規定の両方がチャンスをもたらす。2014年のハイブリッド導入初期と同じように、PU性能にもばらつきが出るだろう。来年からはホンダとのワークスパートナーシップが始まる。以前も一緒に仕事をしたし、ホンダには大きな信頼を寄せている。

F1から1年離れていた分、ある程度キャッチアップは必要かもしれない。でも彼らは技術に特化した素晴らしいエンジニア集団だ。」


マシン開発への取り組み

「いくつかの方向性を同時に追いかけている。それが他チームと異なるのか、あるいは良い方向なのかは、まだわからない。それこそがF1の醍醐味だ。

大きなレギュレーション変更のときは、予算制限や人員制約のせいで、どのチームもリソースが限られる。チームの構成がアプローチをある程度決めてしまう。

今、僕たちのチームで成長が必要な部門の一つはエアロ部門だ。だからこそ、短期的には最も成果の出そうな方向にリソースを集中させる必要がある。

もちろん、それによって見落とす可能性も出てくる。時には、実りある枝かどうかを見極めるには、ある程度進んでみるしかないんだ。

最初は有望に見えなくても、開発が進めば多くの成果を生む方向もある。」


AMR25への関与

「ローレンスが2025年シーズンにも最大限の成果を求めるのは当然だ。そのため、小さなチームが今年のマシンについて空力面での改良を進めている。僕もその小さなグループとランチの時間に意見交換をしているよ。」


ドライバーフィードバック

「ランスともフェルナンドとも、今のクルマの強みと弱み、ドライバー・イン・ザ・ループ型のシミュレーターとの相関性など、幅広く話している。ドライバーは、エンジニアリング部門をどう変えていくか、そして物事の進め方をどうするかの重要なフィードバックループの一部だ。

僕がこの業界に入ってから今までで最も大きな変化の一つは、データレコーダーの進化だ。今ではドライバーの言うこととデータの内容を照らし合わせるのが簡単になった。

ただし、ドライバーは直感的な存在でもある。マシンのハンドリングの欠点を補うために無意識に走り方を変えていることがあるんだ。そして、その変更後の反応について語ることが多い。だからこそ、単にデータを見るだけでなく、彼らの頭の中を読み取る必要があるんだ。」


アストンマーティンでの栄光再現は?

「将来について空想することに意味はない。やるべきことをやる、それだけだ。現代のF1マシンは非常に複雑な存在だ。部品点数の多さもそうだが、そこにシミュレーションの複雑さが加わる。

F1チームはシミュレーションツールへの依存度がますます高くなっている。CFD(数値流体力学)、風洞、実車とこれらのツールとの相関。これらはすべて開発が必要だ。

市販のCFDパッケージは買えるけど、それを調整して使いこなさなきゃ意味がない。風洞も同じだ。ハードウェアは買えても、動作システムのソフトウェアは自分たちで書かないといけない。

ドライバー・イン・ザ・ループ型のシミュレーターも同様で、最高のモーションシステムがあっても、空力モデルやタイヤモデルとの相関性がなければ意味がない。すべてには時間が必要なんだ。」


ノートとサーキット復帰

「正直言って、あの赤いノートにはあまり多くは書かれていないんだ。ただのA4の紙の束を入れるためのホルダーなんだよ。中身はスケッチやアイデア、メモがほとんど。頭の中にあるものを素早く書き留めるための手段だ。

それをもとにアイデアを育てて伝える。でも、ほとんどは他の人には意味不明だろうね。時には僕自身でも読めないことがあるくらいだよ!

今のF1では、20年前と比べて締切が早まっていて、しかも数も多い。だから2026年マシンに集中する必要があり、これまで現場に行けなかった。でも、次戦モナコにはノートを持って行くつもりだ。」