このスポーツにおいて最悪の八百長を仕込んだ人物、フラビオ・ブリアトーレがF1に復帰し、どういった経緯か、昨年からアルピーヌのエグゼクティブ・アドバイザーに就いている。

2008年のシンガポールGP、ルノーチームにおいて当時ドライバーだったネルソン・ピケ・ジュニアに、予め指示したラップ、指示したコーナーで故意にウォールに当たってクラッシュするよう強要し、チームメイト(フェルナンド・アロンソ)に絶好のタイミングでタイヤ交換をさせて優勝に導いた「クラッシュゲート」を仕組んだ張本人である。

※本件についてはFIAよりF1への無期限の関与禁止処分が下されたが、ブリアトーレとパット・シモンズは、世界モータースポーツ評議会 (WMSC) には「調査の過程に落ち度があり、公正な審議を行わなかった」として、処分取り消しと賠償金を求める訴訟を起こした。フランスの大陪審は追放処分は違法と判断し賠償金支払いを命じている。その後なぜか両者は和解し、FIAは2013年以降のF1復帰を認める判断を行っている。

ブリアトーレのF1復帰について、デイモン・ヒルは公然と批判している。トト・ウォルフは「誰にでも二度目のチャンスは与えられるべきだ」と擁護したが、「不注意やミスの類」と「独善的な不正行為」の区別がついていないようだ。ヒルは、アルピーヌが自社製PUを捨てるアイディアを提示したのがブリアトーレではないかと推測している。

「自社のエンジンを捨てるという決断を下せるフラビオのような人物を、彼らは必要としているのかもしれない。そうして、ルノーがワークスチームでいるのかどうかという難しい問題全般から手を引こうとしているのだ。それが彼の得意とするところだ。常識や規則を気にしていない。無責任なことだと思う。だからトラブルに巻き込まれたのだ。」

「私はこのことをとても心配している。後味の悪い不正行為が横行する世界には戻りたくないんだ。」

※1994年のタイトル争い「シューマッハー対ヒル」において、ベネトンB194の合法性は公然と疑問視されていたが、ブリアトーレは当時、ベネトンのチーム代表だった。

世界中のF1ファンの前で八百長レースを仕組んだ罪だけでも十分に非難されるべきだが、このおぞましい不正行為の強要に従ったピケ・ジュニアは、F1ドライバーのキャリアを終了させられ、2008年はこの事件がなければ、フェリペ・マッサがチャンピオンになった可能性も大いにあった。当時ルノーのスポンサーはイメージダウンによりF1から撤退し、ルノーチームもシャシー部門を売却した。この事件で人生を変えさせられた人々のこと思えば、ブリアトーレが受ける罰則は永久追放でも軽いかもしれない。

技術とスピードを追い求めるこのスポーツは、公正な理想や安全を掲げながら、常識と罪悪の感覚が根本的に狂った悪人の参画を許した。F1ファンには受け入れがたい不幸だが、幸いなのはブリアトーレが74歳という高齢で、向こう数年でリタイヤを迎えるであろうことだ。あと数年、アルピーヌで悪事を働かずに過ごすことを願いたい。