レーシングブルズ(VCARB)の新拠点がロンドンの北西80キロ、ミルトン・キーンズに完成し、長年拠点としてきた(同じくイギリスの)ビスターでの活動に幕が下ろされようとしている。かつて空力開発を中心に展開されていたビスターの施設を離れ、ついにレッドブル・テクノロジー・キャンパス内に建設された新オフィスへと完全移行する運びとなった。


最新鋭のミルトン・キーンズ施設へ移行

2つのレッドブル傘下F1チーム間のシナジーを高めるため、RB(VCARB)はビスター拠点の機能を拡充・刷新し、新たにレッドブルのキャンパス内へと移転する。イタリアのファエンツァをメイン拠点とする同チームは、長きにわたりイギリス・ビスターの施設で空力開発を行ってきた。そこでは風洞実験に近い環境を活かしてデザイン部門の一部も置かれていたが、近年は空力部門の規模拡大に伴い、2022年からはレッドブルの風洞を使用するようになっていた。

こうした流れを踏まえ、ビスターを離れ、新たにミルトン・キーンズのレッドブル・テクノロジー・キャンパス内に専用施設を建設することが決定。昨年から始まった工事が完了し、RB CEOのピーター・バイヤー氏がPlanetF1.comに対して、施設がすでに稼働できる段階にあると明かした。

「ミルトン・キーンズのオフィスはすでに準備が整った。
ITチームが入り、システムを整えてくれたおかげで、年末年始のシャットダウン期間中に人員や装備を移転し、1月2日から本格的に運用をスタートできるようになっている。
これによって開発やモデル・ショップ、風洞テストなどにおいて時間を無駄にすることはない。
これは大きな変革だ。なぜなら、そこは最新鋭の施設だからだ。
ビスターは実質的に古いレイナード(Reynard)工場をほぼそのまま使っていた。多少は新しい机やカーペットに替えたが、それ以上の設備はない。駐車スペースも食堂もないし、食料を買いに行くスーパーすらない。ジムも狭くて古びている。正直、もはや時代遅れだし、我々には狭すぎた。
ジョディJody(エギントン=VCARB技術部門ディレクター)やアランAlan(パーマネ=VCARBレースディレクター)のような人間が同時にオフィスにいると、彼らはこのテーブルくらいの広さの部屋を背中合わせで使わなきゃならない。
より魅力的な職場環境を整えることも必要だというのが、今回の移転を決めた理由の一つだ。」

新拠点がもたらす効果

2025年のF1シーズンに向けた準備はすでに進行中だが、新施設が即座にパフォーマンス向上に結びつくわけではない。ただしバイヤー氏は、2026年のレギュレーション変更を待たずとも、ある程度の効果は2025年から得られるのではないかと見込んでいる。

「もちろん綺麗なオフィスが即ラップタイム短縮に直結するわけではないが、少なくとも採用活動においてはプラスに働くだろう。ミルトン・キーンズには立派な食堂があるし、当面はジムの完成まで近隣のジムを利用できる契約も結んでいる。
モデル・ショップを含め、そこに新しい機械設備を導入し、CFD(数値流体力学)関連も最新鋭のシステムを導入する予定だ。
だから、2025年の段階からすでに一定のブーストは得られるはずだ。」


2025年への視線:既に始まっている開発競争

2024年シーズンの最終戦アブダビGP後、Racing Bullsチーム代表のロラン・メキースは新施設の影響がいつどのようにチームに波及するかについて、メディア(PlanetF1.com含む)の質問に答えた。2025年と2026年の開発をいかに並行して進めるかが議論の焦点だ。

「2025年のマシンには、主にプロセス面で行った変更や、人材の強化が最大の効果をもたらすと思っている。新施設自体は1月に移転してから稼働が本格化するので、チームの多くはシーズン序盤で早々に’25年の開発を打ち切るところも出てくるはずだ。
だから、1月1日か2日から’26年のマシン開発モデルを風洞にかけることになるが、ずっとそればかりやるわけではない。’25年の開発も同時に進めるものの、風洞の利用時間は限られるだろう。
それでも、この最新鋭施設はチームがメーカー勢と対等に戦うための大きな手助けになるだろう。」

2026年のレギュレーションは大幅な変更が予定されており、チームは来年(2025年)の1月1日から風洞やCFDによる大々的な開発が許可される。その初期段階からRacing Bullsは新拠点を活かした取り組みを始めるわけだ。


“二拠点体制”がもたらすアドバンテージ

メキースは以前から、ビスターの施設がチームの弱点であると公言してきたが、新施設のおかげでライバルに対して有利に立てると考えている。採用戦略においては、イタリアやイギリスなど、希望する勤務地を選んでもらえる点で候補者の幅が広がるからだ。

「われわれは意図的に、空力開発をビスターだけに固定する形から脱却することを決めた。今後はヨーロッパとイギリスのどちらか一方に限定することなく、“ロケーション・フリー”な企業としてやっていく。
採用したい人材がイタリア在住ならイタリア拠点へ、イギリス在住ならイギリス拠点で働いてもらう。たとえば、レースエンジニアの一人はUK拠点で、もう一人はヨーロッパにいる、といった具合だ。
こうしてロジスティック面での不利を、むしろ有利に変えたいと思っている。
すでに、トップチームから複数の優秀な人材を獲得できているが、その中には個人的な事情でイギリスに戻りたい人や、逆にイタリアで新生活を送りたい人などがいる。そういった要望に対応できる体制が我々の強みになるのではないかと思う。」

こうしてビスター時代の「弱点」を克服し、Racing Bullsはレッドブル陣営の一角として、ますます強固な体制を築き上げようとしている。2025年以降、さらには大変革が見込まれる2026年に向けて、最新鋭の施設を背景にどのようなパフォーマンスを示すのか、注目を集めている。