F1ドライバーとチーム首脳は、2026年シーズン全体での「強制2ストップ導入案」について意見を交わしたが、この提案は正式承認を得られなかった。

モナコで別目的の試験導入が行われ、カタールでも別要因によるテストが予定されているものの、FIA、チーム、F1の三者によるF1コミッションでの議論を経て、2026年開幕時点での“強制2ストップ化”は見送りとなった。支持は十分に集まらなかったが、その有効性についての議論は今後も続けられるという。

近年は「高いデグラデーション(タイヤ劣化)」への不満が続いていた一方で、最近のピレリタイヤは劣化が安定し、一部のレースでは事実上の1ストップ戦略が主流になっていた。さらに、ダーティエアの影響で前車追従が難しく、レース展開が予測可能になりやすいことも指摘されている。ポジション争いがオープニングラップでほぼ固まり、終盤に波乱が起きない限り順位が動かないとの声もある。こうした流れを打破する策として“強制2ストップ案”が検討された。

しかし利点と欠点が多く、決定には至らなかった。F1ドライバーやチーム代表らもこの提案について見解を示し、ピレリの努力を評価しつつ「簡単な解決策は存在しない」と強調した。路面の種類が多岐にわたることが、最適なタイヤ設計を難しくしているという。


マックス・フェルスタッペン

「そうだね、今年のクルマもまた前のクルマを追うのが難しくなっているし、1秒以内で走っているとタイヤがすぐオーバーヒートして、仕掛けるのがかなり厳しいんだ。しかも多くのマシンのペース差は2〜3テンポ程度で、小さすぎる。セーフティカーなどの“何か特別な事態”が起きない限り、抜くのは簡単じゃない。

もしかしたら、2ストップを強制すれば良くなるかもしれない。でも、来年になって『このタイミングで2ストップを強制されるなんて最悪だ』と誰かが叫ぶだろうし、そういう声は常に出る。来年のクルマやエンジンには大きな未知数がありすぎて、2ストップを強制する以前に、分からないことが本当に多いんだ。」


ジョージ・ラッセル

「ドライバーは基本的に“自分にとって最高のクルマ、最速のクルマ”を求めるものだ。でも僕らは20人しかいない一方で、このスポーツを毎週追いかけているファンは1億人以上いる。だから、完璧な解決策が何かは本当に難しい。

もし魔法のように理想のタイヤを作れるなら、例えば60周のレースでハードは30周走ると一気に性能が落ち、ミディアムは20周、ソフトは10周で限界が来る……そんな“はっきりした落差”があるタイヤが理想だと思う。そうすれば各チームが自由に戦略を選べる。だけど、ピレリにとっては非常に難しい要求だ。

さらに言えば、サーキットごとに路面が全く違う。もし全トラックの路面が同じなら、ピレリも狙い通りのタイヤを作りやすいだろう。2ストップ戦略を考えるなら、もっと柔らかいタイヤも必要になる。でも、もしタイヤが劣化せず、2ストップしても楽に走れてしまうなら、結局“タイヤ差”が生まれず、オーバーテイクは増えない。3ストップでも1ストップでも同じだよ。結局は“タイヤ差”がレースを動かす鍵なんだ。」


アラン・パーマン(レーシングブルズ代表)

「2ストップ以上のレースは誰もが好きだが、慎重さも必要だ。今、うちのストラテジストとタイヤ担当が細かく分析しているが、タイヤの特性が2ストップに向いていないと、強制したところで逆効果になりうる。全員が同じ戦略になり、むしろ単調になる恐れがある。

実際、過去には“1ストップ vs 2ストップ”の構図で、1ストップのドライバーを2ストップ勢が猛追するレースがあったが、強制2ストップになるとこの構図は完全に消える。だから慎重に考える必要がある。」


アンドレア・ステラ(マクラーレン代表)

「アランに同意する。タイヤはレースに変化をもたらす最重要要素だ。タイヤにある程度のデグラデーションがあれば、オーバーテイクもピット戦略も生まれる。

ただ、2026年は技術面でもレギュレーション面でも大きく変わる。まずはどんなレースになるのかを見定めるべきだ。その上で、必要ならスポーティング面で調整を行い、レースの魅力を維持すべきだと思う。」


ジェームズ・ヴォウルズ(ウィリアムズ代表)

「これまでの議論を踏まえても、最大の懸念は“全員が同じ戦略に収束してしまうリスク”だ。強制2ストップがその方向に働く可能性がある。

まず土台として、タイヤのデグラデーションやコンパウンド間の性能差を整えることが最優先だ。それができているなら、強制ルールを導入しても良いと思うが、現状ではむしろ戦略の幅が狭まり、来年のレースの多様性はさらに失われる気がする。それが何より心配だ。」