
角田裕毅の評価をめぐって相反する二つの声が同時に響いた。マックス・フェルスタッペンは、セットアップを安定させ予測可能性を高められれば角田にも確かな恩恵が及ぶと語った。一方で、元F1ドライバーのリカルド・パトレーゼは「角田は(勝敗やタイトル争いの行方を左右できる決定的な)違いを生めていない」と断じ、王者の隣で実力を示すことの難しさを突きつけた。
フェルスタッペンの見立ては極めて現場的だ。レッドブルのマシンはウィンドウが狭く、空力バランスやメカニカルグリップのごく小さなズレが挙動の乱れとなって表面化しやすい。そこで再現性の高い安定セットを確立できれば、角田のスピードをレース全体で引き出せると期待するのは自然だ。
「マシンをもう少し予測しやすくできれば、その恩恵はチーム全体に広がる。もちろんユウキにもだ。」
とフェルスタッペンは語った。対してパトレーゼは、評価の物差しそのものを突く。フェルスタッペンという絶対的基準の隣では、同じマシンに乗っても違いを生めないという烙印に直結する。
「王者の相棒として決定的な違いを示すのは至難だ。だが角田はそこに届いていない。」
パトレーゼは、現代F1はドライブ以前の準備・指示が多く、ドライバー個人の決定的影響力は小さいという持論を背景に、フェルスタッペン級の相棒と同じガレージで、レースをひっくり返す存在にはなれていないと評価する。
この辛口は、個人の力量だけでなく比較対象の苛烈さをも示唆している。トップチームのセカンドシートに宿命的にまとわりつく、相対評価の冷酷さそのものだ。またパトレーゼは1992年チャンピオンのナイジェル・マンセルのチームメイトとして、その後1993年は若いミハエル・シューマッハーと共にベネトンをドライブした経験を持つ。
角田にとって今季後半は環境を整えた上で数戦が勝負になる。読みやすいマシンを得て、彼がその上で強みを研ぎ澄ませることができれば、風向きは一気に変わるだろう。手強いチームメイトと共に過ごしたパトレーゼの直言は重く、フェルスタッペンの楽観は現実的だ。二つの声は対立ではなく、頂へと続く同じ稜線を別方向から指し示している。今はただ、角田がその稜線を切り拓いていけるかどうかに注目したい。