「最悪の日でも、彼らは依然として最高だ」と語ったのは、メルセデスのジョージ・ラッセルであった。これは、マクラーレンがタイヤを素早く適正温度に持ち込み、その後のロングスティントでもほとんど劣化しないという特性について問われたときの発言である。

「これは、他の9チームが何かを間違っているということを意味している」

そうラッセルは続けた。

だが、マクラーレンのタイヤに関する優位性に対して、もっとも強く異議を唱えているのはレッドブルであった。舞台裏では、同チームがピレリ製タイヤ内に、水を少量注入して冷却効果を得ているのではないかという疑惑が出ており、FIAが調査に乗り出した経緯もあった。(タイヤ内に注入できるのは空気と窒素のみと規定されている)

この疑惑を揶揄するように、マクラーレンのCEOザク・ブラウンは、マイアミGPのピットで「Tyre Water(タイヤウォーター)」のロゴを貼った水筒から水を飲んで見せ、笑いを誘った。

ピレリのF1部門責任者マリオ・イゾラも、この“タイヤ水”説をきっぱりと否定した。

「我々はセンサーを通じて、常にタイヤの空気圧と温度を監視している。バルブや他の部分から水を注入すれば、それは即座にデータ上で判明する」

「それは、ただ可能性が低いというだけでなく、現在のFIAの監視体制のもとでは、ほぼ不可能だ」

ところがここにきて、さらに興味深い新説が浮上している。ドイツの『Auto Motor und Sport』誌が詳報した内容によると、マクラーレンのタイヤ管理に関する“秘密兵器”の正体に、ある技術が関与している可能性があるという。

記者ミハエル・シュミットは、昨年レッドブルが「マクラーレンがフリープラクティス以外のセッションで、ブレーキの温度センサーを使用している」と抗議した事実を指摘した。

さらに彼は、マクラーレンがFP3で頻繁に長時間のアグレッシブなロングランを行っていることにも注目すべきだと述べた。

では、マクラーレンは一体何を確認しているのか。シュミットは、ブレーキ周辺のコンポーネントに「相変化材料(PCM:Phase Change Materials)」を使用している可能性を報じた。

PCMとは、固体から液体へと変化する際に熱エネルギーを蓄え、また放出することができる特殊素材。この材料の使用こそが、レッドブルが観察した“マクラーレンのホイールリム内部から時折見られる水分”の正体なのではないか、というのがシュミットの見解である。

「相変化の過程で、液体が生じてホイールから、“汗をかく”ように滲み出していたのかもしれない」

奇抜な発想ではあるが、非現実的な話というわけではない。実際、レッドブルが“タイヤ水”という説を振りかざしたこと自体が、その可能性を示唆しているとも受け取れる。

シュミットはさらに続けた。

「仮にライバルたちがすでにマクラーレンの秘密を把握していたとしても、それを真似するのは簡単ではない」

そして、レッドブル自身がすでに似たような素材を試しているのではないかとさえ推測した。これが、近ごろマックス・フェルスタッペンが繰り返し訴えているブレーキへの不満の背景にあるのかもしれない。

この件について「タイヤ冷却に関係しているのか」と問われた際、レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーは、わずかな言葉しか返さなかったとシュミットは結んでいる。